素晴らしい近世の文献コレクションをバラバラにしないで!

久々にサザビーズのオークションをチェックしました。今は専用アプリにカタログアプリもあるので遠くに住む貧乏人も目の保養をさしてもらえます。ありがたや
装飾写本や歴史上人物の手書き原稿や手紙堪能しましたが、ロバート・マクナマラの所蔵品オークションがあったのは知らなかった。キューバ危機とかベトナム関連の品々などは色々と考えさせられる。ジャッキーからの手紙も結構あって、その言葉選びのうまさに脱帽。
そんなサザビーズ、来月には、ニューヨーク店でマウントバーノン所蔵の書籍をはじめ、1945年9月2日のミズーリ号上で調印された日本降伏文書のコピー(調印時、20部ほどつくられた完全ファクシミリ版の一冊)やその際のラジオ向けマッカーサーの演説原稿など歴史的に面白いアメリカ文書群が、オークションにかけられるようで、そのすごさとそんなもの売り買いしてどう?とビックリですが、ロンドン店では事務弁護士協会が保有しているmendhamのコレクションがオークションにかけられてしまう事が判明。てっきり、中止されると思ってたのにショックです。19世紀前半に特に活躍した国教会の聖職者Joseph Mendhamの蔵書ですが、コレクションを受け継いだ甥の未亡人によって協会に寄贈されたものです。15-19世紀の聖書や宗教書、贖宥状、公会議関連文献、カトリックを巡る論争関連書、宗教改革、教父の写本など素晴らしいコレクションで、カンタベリー大聖堂(ケント大学連携している)に貸し出されてきました。近世の文献は充実していて、ヘンリ8世の宗教著作、カヴァデールにタバナー、フリスにティンダル、祈祷書、モアの論争書などイングランドものはもちろん、歴史的価値の高い他言語訳聖書、ルターの初版、トリエント公会議に関わるものなど、ほんとお願い見せて頂戴ってかんじです。有名な禁書目録もみごとに揃ってます。これらが売り出されて、コレクションが散逸するのは大変危険です。昨年からメディアで話題になるほど英米では請願も行われたのに、結局、売られる結果となるとは腹立たしい。過去にも超「敬虔」なアメリカの金持ちがなくなって、貴重な文献が行方不明になったり、切り刻まれたりしたが、今回のは話にならない。個人管理のコレクションではないし、社会的にみとめられた団体が、一応「財政」を理由にするとはいえ、みすみすイングランド近世を彩る文献をオークションで散逸させるのか?サザビーズは素晴らしいオークションハウスだが、行き先が不明になったり、1ページだけでも美術的価値が見出せるものは切り刻まれる可能性もある。もしかして、マイクロフィルムがあるから平気とか思っているのか?問題になってほぼ1年。悲しい。
このオークションのカタログの表紙の版画は、16世紀イングランドの3人の殉教者をとりあげた作品のウィリアム・ティンダルの火刑場面。すでに首も締められ、意識が遠のいて行く彼の口から「主よ、イングランド王の目を開けさせたまえ!」と最期の言葉が発せられている。うーん、皮肉
責任感のあるお金持ちの人か団体が買い取って図書館に寄付か、誰も買わないで欲しい。